教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
  
 
トップページ憲法教育を考える 教えることは学ぶことである
──立命館における憲法リテラシー・プロジェクト──
 
教えることは学ぶことである──立命館における憲法リテラシー・プロジェクト──
2012年3月26日
君島東彦さん(立命館大学国際関係学部教授)
 
1 国際関係学部の専門演習──アクティブ・ラーニングの実践
 立命館大学国際関係学部で2006年度から専門演習を担当している。専門演習は3回生と4回生を対象とする科目で、毎年、各学年約15人、合計約30人のゼミ生がいる。専門演習はここ数年、「地球社会を憲法学する/平和学する」というテーマで、ゼミ生によるテキスト(『平和学を学ぶ人のために』世界思想社)各章の報告、あるいはゼミ生各人の研究テーマ・卒論テーマに関する報告、それらにもとづくディスカッションという内容で進めている。報告とディスカッションは熱を帯び、本来の90分の授業時間を超えて4時間に及ぶこともある。しかしわたしの専門演習の特徴は、正課の授業時間外にゼミ生が取り組むさまざまなプロジェクトにある。
 年度によって変動があるが、2011年度に君島ゼミが取り組んだプロジェクトは次のようなものである。1)PEACE by PIECEプロジェクト。これは、京都のコミュニティFMラジオ局・京都三条ラジオカフェで、平和に関する30分のラジオ番組、PEACE by PIECE、を毎月1本制作・放送するというプロジェクトである。これは2006年6月の放送開始以来、6年間毎月欠かさずに放送してきた。2)中日交流プロジェクト(中日大学生平和討論会、China-Japan Student Peace Talk)。これは、日本、朝鮮半島、中国の若い世代──大学生、高校生──が出会って、韓日関係や中日関係について互いの疑問をぶつけ合い、遠慮のない率直な議論をすることがこの地域の平和をつくるために必要不可欠であるという考えにもとづいて始めたプロジェクトである。2010年は韓国(強制)併合100年の年にあたり、韓国政府系の青少年振興センター/東北アジア歴史財団と連携して、韓国の高校生・大学生と立命館大学君島ゼミとで「韓日青少年平和討論会」を京都とソウルで行なった(韓日交流プロジェクト)。2011年度は、中国・上海の復旦大学国際問題研究院の沈丁立(ShenDingli)教授、賀平(He Ping)博士の協力を得て、立命館大学君島ゼミの学生12人が上海の復旦大学を訪れ、復旦大学の学生(国際関係論専攻が多かった)13人と2日間にわたって、中日学生平和討論会を行なった。これらのプロジェクトは、「わたしが学生のときにこういうことをやりたかった」という思いで始めたものであり、アクティブ・ラーニングの実践である。

2 憲法リテラシー・プロジェクトとの出会い
 ほかにもいくつかのプロジェクトがあるが、これらと並んで重要なのが、「憲法リテラシー・プロジェクト」である。これについては、多少回りくどい説明が要る。
 2007年から2008年にかけて、米国ワシントンDCのアメリカン大学国際関係学部/国際関係研究科で客員教授をつとめた。立命館大学とアメリカン大学は、学術交流協定にもとづいて教員を交換して、客員教授による授業を開講している。2007年から2008年にかけては、わたしが立命館大学からアメリカン大学に派遣されて授業を担当した。このときに、アメリカン大学ロースクールで行なわれていた「マーシャル=ブレナン憲法リテラシー・プロジェクト」に出会った。これは、憲法を学んだロースクールの2年生および3年生が、地元ワシントンDCとメリーランドの高校を訪れて、そこで高校生に対して憲法および法学に関する授業をするというプロジェクトである。合衆国最高裁判所のリベラル派の判事として高名であったサ
ーグッド・マーシャルおよびウィリアム・ブレナンの未亡人たちの熱心な支持を得て、彼らの名前を冠して、1999年に始まった。米国の高校は地域によっては充分な教育が行なわれているとはいえない。このプロジェクトはそれを補うという意味も持っている。米国のロースクールには必ずリーガル・クリニックがあり、ロースクールの学生が教員の指導のもとに市民の訴訟を支援している。アメリカン大学の憲法リテラシー・プロジェクトもそれに似た性格を持っているといえる。ロースクールの学生は高校で具体的に何を教えるのかというと、とりわけ「学校における生徒の権利」と「少年司法」について授業をしている。憲法リテラシー・プロジェクトは、ロースクールの学生にとっても、地元の高校にとっても有意義であり、アメリカン大学で始まったこのプロジェクトは、いまではイェール・ロースクール、ペンシルヴァニア大学ロースクール、カリフォルニア大学ヘイスティングス・ロースクール等を含む全米の19のロースクールで行なわれている。

3 立命館における憲法リテラシー・プロジェクト
 アメリカン大学で憲法リテラシー・プロジェクトに出会ったとき、わたしは「これは立命館大学でもできる、立命館大学でぜひやりたい」と考えた。2008年度後期に立命館大学で専門演習を再開したとき、さっそくゼミのプロジェクトとして、憲法リテラシー・プロジェクトを開始した。立命館大学における憲法リテラシー・プロジェクトは、アメリカン大学のものとは2つの点で内容、性格が異なっている。第一に、国際関係学部のわたしの演習の学生が取り組むので、高校の授業では日本国憲法の平和主義について扱うことになった。第二に、アメリカン大学の場合、教育を受ける権利の保障が充分でない地元の高校に教えに行くが、わたしの演習の学生は立命館大学の附属校である立命館宇治高校に教えに行く。このプロジェクトは高校の先生の理解と協力なしには不可能であるが、立命館宇治高校の杉浦真理先生の協力を得られたからである。杉浦先生の担当科目の授業進行にしたがって、適切な時期に、わたしのゼミの学生が授業をしているのである。立命館宇治高校は非常に充実した教育をしている高校であり、アメリカン大学の学生が授業をしに行くワシントンDCの高校とは違う。しかし、立命館においてはこのプロジェクトは新しい意味を持つことになった。

4 憲法平和主義を教えることによって自分のものにする
 ここ数年、立命館では「学びのコミュニティをつくる」ということが意識されている。これは以前からあった立命館大学の学びの特徴を意識化したものである。つまり「学生は教員からだけ学ぶのではない、学生は仲間の学生からも学ぶのだ、学生は教える主体でもある」ということである。憲法リテラシー・プロジェクトは、立命館大学の学生が立命館の附属校の生徒に教える、学生・生徒が互いに学び合うという経験なのである。
 わたしの専門演習では、憲法リテラシー・プロジェクトをこのように位置づけて、2008年度後期に始めて以来、2011年度で4年目になる。年度によってテーマや担当する授業時間数に多少の変動はあるが、大筋は変わっていない。毎年、ゼミ生はこのプロジェクトにたいへんな時間をかけて授業を準備し、高校で授業をしている。
 教えることは学ぶことである。授業を準備しようとして初めて、自分がどれほど憲法の平和主義についてわかっていないかを認識する。そして、授業準備のための真の学習が始まる。また、毎回、ゼミ生4、5人のチームで授業をするので、授業準備は各人の意見の衝突・調整でたいへんなエネルギーを必要とする。この意見の衝突とその調整は、まさに紛争解決・紛争転換の実践である。
 大学生が高校の授業をするメリットもある。ひとつは、高校教員よりも大学生の方が高校生に世代が近いので、高校生の知識・理解度がどの程度であるか、わかっている。それから、効果的なパワーポイントの作成はもちろん教員よりも大学生の方がはるかにうまい。高校生にとっては、授業をする大学生はロールモデルになっている面もある。
 わたしのゼミの学生は、これまで本当に熱心に、時間をかけて憲法リテラシー・プロジェクトに取り組んでくれた。「憲法の平和主義を自分のものにする」という点で、このプロジェクトはきわめて有意義である。立命館宇治高校の生徒のみなさんにとっても、大学生による授業がよいインパクトとなっていることを切に願うものである。
 
【君島東彦(きみじま あきひこ)さんのプロフィール】

早稲田大学法学部/法学研究科、シカゴ大学ロースクールで学ぶ。専門は憲法学、平和学。日本国憲法の平和主義を、戦後世界秩序の文脈、平和学の視点、NGOの視点から捉え直し、活かすことを課題とする。1990年代からNGO活動に深くかかわっている。現在、アジア太平洋平和研究学会事務局長。毎年、ノーベル平和賞の候補者をノミネートしている。主な著作として、『平和学を学ぶ人のために』(編著、世界思想社、2009年)、『非武装のPKO──NGO非暴力平和隊の理念と活動』(編著、明石書店、2008年)。最近の論文として、「多面体としての憲法9条──1つの見取り図」市川正人・徐勝編著『現代における人権と平和の法的探求──法のあり方と担い手論』(日本評論社、2011年)173-187頁。

 
 
 
トップページ憲法教育を考える憲法教育実践の交流中高で学ぶ憲法用語解説注文方法映像内容
普及事務局からのお知らせ生徒からの感想・意見コーナーご意見コーナー「憲法と共に歩む」製作委員会とは関連リンク集
Copyright(C)2010 憲法を観る All Rights Reserved.